遺産分割調停は、条文や手続だけを追っていると全体像が見えにくい分野です。
本書は、調停の進行を物語形式で描いており、読み物として面白いだけでなく、実務の流れや判断ポイントを具体的にイメージできる点が印象的でした。

感情が絡む相続の現場で、調停がどのように進み、どこで争点が整理されていくのか。
実務者として多くの学びがありました。


■ 調停不成立後の「審判移行」

遺産分割調停が不成立で終了した場合でも、
調停申立時に遺産分割の審判申立てがあったものとみなされ、当然に審判手続が開始されます。

この点については、

  • 改めて審判申立てをする必要はない
  • 新たな手数料の納付も不要

という扱いになります。
実務上、依頼者への説明で誤解が生じやすいポイントでもあるため、整理して理解しておく必要があります。


■ 遺産分割調停の基本的な進行順

遺産分割調停は、概ね次の順序で整理されていきます。

  1. 前提問題の確認
     相続人の範囲、遺言書の有無、遺産の範囲など
     → ここで合意できない場合は、民事訴訟による解決が必要となります。
  2. 遺産の評価
     評価について合意できない場合、鑑定が必要となり、
     鑑定費用は当事者負担となる点も重要です。
  3. 遺産総額および具体的相続分の確定
  4. 遺産の分割方法の調整

前提問題が曖昧なままでは、調停は前に進みません。


■ 寄与分・特別受益の主張と立証責任

寄与分や特別受益については、
主張する側が証拠によって事実を立証する必要があります。

感覚的な不公平感だけでは足りず、
客観的な資料や具体的な事実関係の積み上げが求められます。


■ 不動産の評価方法(実務的な考え方)

不動産評価については、調停の場面でしばしば問題となります。

割戻し計算の一つの目安として、

  • 相続税評価額 ÷ 0.8 → 公示価格に近づく
  • 固定資産税評価額 ÷ 0.7 → 公示価格に近づく

といった考え方が紹介されており、
実務上の調整感覚をつかむうえで参考になります。


■ 持戻し免除の意思表示

被相続人が、特別受益分を遺産に持ち戻す必要がないという意思を示していた場合、
明示の意思表示だけでなく、黙示の意思表示でも有効とされます。

相続分以外に財産を取得させる意思が推測できる事情があるかどうかが、
判断のポイントとなります。


■ 換価分割と債務名義

換価分割については、手続によって扱いが異なります。

  • 審判による換価分割:競売が必要
  • 調停による換価分割:当事者の合意があれば任意売却も可能

また、強制執行を行うためには、
**債務名義(請求権の存在と範囲を示す文書)**が不可欠であり、
これがなければ強制執行はできません。


✍️まとめ

遺産分割調停は、
法的な整理だけでなく、当事者の感情や現実的な事情を踏まえた調整が不可欠な手続です。

本書は、制度の理解にとどまらず、
「調停の現場で実際に何が起きているのか」を具体的にイメージできる点で、
非常に学びの多い一冊でした。

引き続き、実務に活かせる知識を整理していきたいと思います。